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    第35回南方熊楠賞【自然科学の部】選考報告

    南方熊楠賞選考委員会(自然科学の部)
    委員長 石井 実 
    第35回南方熊楠賞(自然科学の部)は、慎重に審議した結果、南方熊楠賞の受賞者に松浦啓一氏を選考した。


     第35回南方熊楠賞選考委員会は、受賞者として、国立科学博物館名誉研究員の松浦啓一氏を選出した。松浦氏は1971年に東京水産大学(現東京海洋大学)を卒業後、1978年に北海道大学大学院水産学研究科を修了し、水産学博士を取得された。その後、1979年に国立科学博物館動物研究部研究官に就任され、同主任研究官、同室長、同部長、同特任研究員を歴任された後、2013年国立科学博物館の名誉研究員となられた。
     松浦氏は、動物分類学者として、国立科学博物館において一貫して真骨魚類の系統や分類、生物地理、生態に関する研究に従事してこられた。具体的には、フグ目に分類される種の分類学的研究やサンゴ礁に生息する魚類の生物地理学的研究に取り組まれ、多くの新種を発見されるとともに、その分類体系の見直しを進めてこられた。また、国内各地のみならず太平洋熱帯域の多くの島々において調査活動をされたほか、世界各地の博物館に保存されている魚類標本の調査も進められ、その過程で魚類コレクションのコンピュータ管理や日本産魚類データベースの構築に取り組まれたほか、国連食糧農業機構(FAO)の魚類同定ガイドの作成、世界分類学イニシアティヴや地球規模生物多様性情報機構(GBIF)における活動など、この分野の研究の発展を支える基礎となる活動や発展途上国の研究人材の育成にも大きな貢献をしてこられた。魚類の生態研究についても、松浦氏は黒潮のような強い海流が海産魚類の拡散に寄与するだけではなく、移動を妨げる障壁となっていることを発見し、遺伝子を用いた個体群解析によりその仮説を立証するなどの成果をあげられている。
     松浦氏は、学界においても日本魚類学会の会長、日本分類学会連合の代表や、国際魚類研究会議の委員、日本学術会議連携会員等を歴任され、この研究分野における指導的な役割を果たされたほか、最近では国立沖縄自然史博物館の設立に向けた活動にも尽力されている。これらの研究と社会活動の業績は、140編を超える原著論文・総説のほか、数多くの著書、教科書や図鑑として公表され、魚類の生物多様性と生態の理解を深め、また同分野のさらなる発展に向けた土台を作る上で顕著な貢献をされた。これらの出版物には児童向け、一般向けの図鑑や普及書も多く含まれ、一般市民の魚類の多様性や生態への関心を高めるほか、同分野の後継研究者の育成の上でもきわめて大きな役割を果たしている。
     選考委員会は、魚類を対象とした分類学および生物地理学などの分野において、数多くの優れた業績をあげ、また生物多様性研究の発展に寄与するさまざまな活動を行ってこられた松浦啓一氏を、第35回南方熊楠賞に最もふさわしい研究者であると評価し、受賞者として選考した。